λグリッド

ネットワーク技術の発展と計算機の高性能化に伴い,グリッドコンピューティングに関する研究が盛んに行なわれている.グリッドコ ンピューティングは,広域に分散した計算機やストレージ,さらには観測機器,さまざまなデバイスなど,多くのリソースを,ネットワークを介して統合的に接 続し,ひとつの大規模な仮想計算機として機能させるインフラストラクチャを構成する技術である.グリッド環境を実現するためには,地理的に分散したさまざ まなコンピューティングに関する膨大なリソースを動的に共有し,複数の計算機を用いて並列処理させることが重要な課題となっている.そのため,グリッドコ ンピューティングでは,リソース情報やジョブの処理に必要な入力データ,出力データなど,大容量データの転送を行なう必要がある.そこで,近年の光ネット ワーク技術の発展により,グリッド環境の構築にWDM(Wavelength Division Multiplexing)や光パスを導入したλグリッドに関する研究が行なわれている.
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研究紹介

デッドラインを考慮した波長割り当て
本研究では,各波長がタイムスロットに分割されていることを想定している.従来のジョブスケジューリングではデッドラインを考慮せず,ジョブ実行時間が最 短となるように短期間で多くの波長タイムスロットを割り当てるため,デッドラインが短い呼のブロック率が劣化するという問題があった.そこで本研究では, λグリッドネットワークにおいてデッドラインが短い呼のブロック率を改善するために,デッドラインを考慮した波長タイムスロット割り当てスケジューリング を提案する.提案方式では,デッドラインに応じ長期間でタイムスロットを予約することにより,デッドラインの短い呼のブロック率を低減できる.計算機シ ミュレーションにより,デッドラインを考慮しない波長タイムスロット割り当て方式と比較して,提案方式は低負荷時にブロック率を1~2オーダ改善できることを示した.

並列ダウンロードにおけるサーバ選択
グリッドでは,データをファイル形式で保存するため,破損による影響の軽減,サーバへの負荷分散を考慮し,ファイルは複製配置される.ファイルを並列ダウンロードすることにより,ダウンロード時間の短縮,転送速度の向上,そして複製サーバへの負荷の分散を行うことが可能である.しかし,並列ダウンロードでは,複数のコネクションが多数のリンクを通るため,多数のボトルネックリンクが発生し,光パスがブロックされる可能性も考えられる.本研究では,ボトルネックリンクの影響を減らし,ネットワークを効率的に利用するため,WDMネットワークにおける並列ダウンロードにおいて,各リンクの波長利用状況を考慮したサーバ選択を行う方式を提案する.提案方式では,サーバを選択する際に,各リンクの波長利用状況とあらかじめ設定されているコストを新たなコストとして考慮することで,選択するサーバを分散し,ブロック率を改善することができる.

ジョブスケジューリング
光グリッドでは,光ネットワークを制御するGMPLS 技術を用いることで,計算機リソース,実行時間などに加えてネットワークリソースの自動的な事前予約が可能である.従来のジョブスケジューリング方式では,新たに発生したジョブ(新ジョブ) がすでに割り当てられてるジョブ(既存ジョブ) の影響によって,要求通りにリソースを割り当てることができない場合,スケジューラは既存ジョブと新ジョブの優先度を比較し,既存ジョブの優先度が低い場合には,たとえジョブの実行がもまなく終了する場合でも既存ジョブを中断させ新ジョブを割り当てる.中断により,ネットワークリソースの資源確保といったオーバーヘッドが増加する.そこで本研究では,優先度に加え既存ジョブのジョブ終了時間を考慮したジョブスケジューリング方式を提案する.計算機シミュレーションによる特性評価を行い,従来のジョブスケジューリング方式と比較して,グリッドシステム内の平均遅延時間を約20%改善できることを示す.また既存ジョブの中断回数を減少できることを示す.

研究業績

  • 宮城洋之, 林谷昌洋, 石井大介, 荒川豊, 山中直明,”λグリッドネットワークにおいてデッドラインを考慮した波長割り当てスケジューリング,” 電子情報通信学会技術研究報告, PN2005-109, pp57-62, 2006年3月
  • 碓井亮太, 宮城洋之, 荒川豊, 岡本聡, 山中直明,”λグリッドネットワークにおける分散データアクセス手法,” 電子情報通信学会技術研究報告, PN2007-4, pp19-24, 2007年6月
  • 幸田新平, 宮城洋之, 荒川豊, 岡本聡, 山中直明,”光グリッドにおける優先度及びジョブ終了時間を考慮したジョブスケジューリング方式の提案,” 電子情報通信学会技術研究報告, PN2006-85, pp17-20, 2007年3月
  • Hiroyuki Miyagi, Masahiro Hayashitani, Daisuke Ishii, Yutaka Arakawa, Naoaki Yamanaka, “A Deadline-Aware Wavelength Scheduling scheme for WDM-based Lambda Grid Networks,” The 10th International Symposium on Contemporary Photonics Technology (CPT 2007), pp. 119-120, January 2007.
  • Hiroyuki Miyagi, Masahiro Hayashitani, Daisuke Ishii, Yutaka Arakawa, Naoaki Yamanaka, “A Deadline-Aware Scheduling Scheme for Wavelength Assignment in Lambda Grid Networks,” 2007 IEEE International Conference on Communications (ICC2007), No. ONS8.1, June 2007.
  • 宮城 洋之, 岡崎 裕介, 碓井 亮太, 荒川 豊, 岡本 聡, 山中 直明, “パラレル伝送を適用したグリッドコンピューティング特性の評価,” 電子情報通信学会技術研究報告, Vol. PN2007-93, pp. 111-116, March 2008.
  • 宮城 洋之, 岡崎 裕介, 碓井 亮太, 荒川 豊, 岡本 聡, 山中 直明, “ネットワーク特製を考慮したグリッドコンピューティングに関する研究,” PN研究会学生ワークショップ, pp. 23-25, March 2008.
  • Ryota Usui, Hiroyuki Miyagi, Yutaka Arakawa, Satoru Okamoto, Naoaki Yamanaka, “A Novel Distributed Data Access Scheme Considering with Link Resources and Metric in Lambda Grid Networks,” International Conference on The 14th Asia-Paciffic Conference on Communications (APCC2008), 16-PM2-C-2, October 2008.