光バースト交換

近年のインターネットトラヒックの急増に伴い,高速かつ大容量の伝送方式及びスイッチング技術に関する研究が盛んに行われている.なかでも,一本の光ファイバに複数の波長を多重する波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)技術は,次世代IP バックボーンネットワークを実現するためのコア技術として注目されている.しかしながら,電気的処理を行うルータとWDMネットワークを用いて,IP バックボーンネットワークを構築する場合,電気段での処理速度が光ファイバの伝送速度以下となり,これが,ネットワークの高速・大容量化のボトルネックとなる.そのボトルネックを解消する方式として,エッジルータにおいて同一の宛先かつ同一の品質要求を持つIP パケットを,バースト性を有するIP パケット列(以下,バースト信号と略)に多重して転送する光バースト交換(OBS:Optical Burst Switching) が注目されている.

研究紹介

OCBSにおけるホップ数に依存しないQoSの実現
OBSはエンドツーエンド間での波長予約を行わないため,コアルータにおいて複数のバースト信号が同一の出力ポートを目指すことにより生じるバースト信号の競合が問題となる.OBSでは,バースト信号の競合が発生した場合, 後から到着したバースト信号全体を棄却する.バースト信号の競合の影響を低減する方式として,バースト信号の競合が発生した場合, 後から到着したバースト信号のうち,既に出力ポートを通過しているバースト信号と重複する前方部分のみを棄却して残りの部分を転送するOCBS (Optical Composite Burst Switching)が提案されている.しかし,OCBSではあて先エッジルータまでのホップ数(以下,単にホップ数とする)が多いバースト信号はコアルータを経由する回数が多く,ホップ数が少ないバースト信号と比較してバースト信号に多重されているパケットが棄却される可能性が増加する.そのため, OCBSにおいてQoS制御を行う場合,従来方式ではホップ数が多い場合とホップ数が少ない場合で同じQoS要求を持つパケットが棄却される可能性が異なるため,ホップ数に依存しないQoS制御を行うことができないという問題がある.ホップ数に依存しないQoS制御を行うために,QoS要求の異なるパケットをホップ数に応じて多重する比率を変化させるバースト信号生成方式を提案した.

経路学習によるバーストロスの低減
従来のOBSでは、バースト信号が常に最短パス経路で転送されるため、あるリンクにトラヒックが集中した場合、バーストロスが増大するという問題がある.そこで、経路学習によりバースト信号の送信経路を切り替えて使用する方式を提案した.提案方式では,送信の成否を伝えるフィードバックパケットと使用経路以外の経路におけるトラヒック状況を調べる探索パケットを新たに導入する.送信ルータは,バースト信号を送信した際,フィードバックパケットと探索パケットを使用して得られた情報に基づいた経路学習を行う.提案方式では,各送信ルータが分散的に経路学習を行うことによって,ある特定のリンクに負荷が集中することを回避し,OBSネットワーク内の負荷を分散することができる.

QoS(Quarity of Service)の実現
インターネットの普及に伴い,今後様々なサービスのトラヒックがネット ワーク上を流れることが予想される.そこで,光バースト交換においても,異なるサービス要求をどのように満たすかが課題であると言える.従来のQoS制御方式として,オフセット時間(ヘッダとバースト信号の送信間隔)を優先度に応じて変化させる方式が提案されていたが,この方式は,棄却率に関する優先度が高いパケットほど遅延が増大するという問題点があった.そこで,遅延を劣化させること無くパケット棄却率に関する優先制御を行う方式として,バースト信号内のIPパケットの並び順に優先度をマッピングしたQoS差別化方式を提案した.

コンテンション回避
バースト信号同士の衝突を回避する方法として,時間方向,波長方向,空間方向の3つの方式が従来考えられている.時間方向としては,ファイバ遅延線などの光バッファを用いる方法が提案されているが,柔軟性に欠ける,スイッチサイズが増大するという問題がある.波長方向の手法である波長変換はコスト的に全ノードに実装することは困難であると言う問題点がある.また,空間方向として迂回ルーティングなどがあるが,遅延が増大するという問題点がある.そこで山中研究室では,ノードをリング状に配置し上流優先スイッチングを行うことで中継ノードで棄却されない高信頼のOBSリングネットワークを提案している.さらに,提案リングでは,分散的な公平性制御機構を用いることで,リング内のノード間で公平なアクセスを実現するともに,全体のスループット向上を図っている.

スケジューリングアルゴリズム
OBSネットワーク内TDMドメインを形成し,効率的なバースト転送を行うTSOBS (Time Sliced Optical Burst Switching) ネットワークが注目されている.山中研究室では,さらなるスループットの向上を目的とし,バースト信号を割り当てることによって新たに生成されるhead gapとtail gapを考慮することにより未使用タイムスロットの削減を図ったスケジューリングアルゴリズムを提案している.

研究業績

  • 伊藤隆範, 石井大介, 岡崎浩平, 笹瀬巌,”TSOBSネットワークにおいてHead GapとTail Gapを考慮してバースト信号転送数の増加を図ったスケジューリングアルゴリズム,” 電子情報通信学会論文誌, 採録決定.
  • 林谷昌洋, 石井大介, 岡崎浩平, 山中直明,”OCBSにおいてあて先エッジルータまでのホップ数に依存しないQoS制御を実現するバースト信号生成方式,” 電子情報通信学会技術研究報告, PN2004-83, OFT2004-89, OPE2004-190, LQE2004-137, pp39-44, 2005年1月.
  • 藤井敬人, 荒川豊, 笹瀬巌, “OBSネットワークにおいてバースト信号長制御,オフ セット時間制御,部分廃棄を組合わせたQoS制御差別化方式,” 電子情報通信学会論文誌, Vol.J88-B, No.1, pp.197-209, 2005年1月.
  • 石井大介, 藤井敬人, 荒川豊, 笹瀬巌, “OCBSネットワークにおいて宛先エッジルータまでのホップ数を考慮したバースト信号棄却方式,” 電子情報通信学会論文誌, Vol. J87-B, No.6, pp.812-828, 2004年6月.
  • 荒川豊, 佐久田誠, 笹瀬巌, “部分廃棄を適用した光バースト交換網において複合バースト信号を用いた優先制御方式,” 電子情報通信学会論文誌, Vol.J87-B, No.5, pp.660-672, 2004年5月.